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その1 バインBánh
『ベトナムの事典』(同朋舎)にも冨田健次先生が「バイン」の項目を執筆されていますが、漢字の「餅(現代中国語はpìng)」に関係があるバインという名詞は、とても広い意味をもっています。
ベトナム料理ファンの若い女性は、たいていバインミー(bánh mì)が好きですね。このごろ日本のベトナム料理屋でも人気の、フランスパン(バゲット)のことです。ミーは小麦(小麦粉で作った中華ソバもやはりミー)のこと。定番のフランス風パテ(pa tê)をはさんだバインミー・パテと、コンデンスミルク入りのコーヒー(カフェスアcà phê sữa)という朝食の組み合わせは絶品ですよね。パテの代わりに中華風のサラミソーセージ(スクシクxúc xíc)も行けます。
このごろはフランスパン以外のパンも珍しくないし、ケーキ(フランス風にガトーga tô)もバインを冠してバイン・ガトーというように、小麦粉を焼いて作った西洋の食べ物はたいていバインですね。また、菓子パンやケーキ、ベトナムの餅菓子などを総称して、バインゴット(bánh ngọt)という表現もあります(ngọtは「甘い」)。
もちろん、バインはもともと、ベトナムの食べ物を指す単語です。たとえば、これも知らない人のないライスペーパー、あれはバインダー(bánh đa)またはバインチャン(bánh tráng)といいます。それから、ベトナム料理屋では、えびせん(バインフォン・トムbánh phồng tôm)や米粉のお好み焼きバインセオ(bánh xèo)も好きなかたが多いでしょう。フエ料理では、小皿で蒸した米粉に小エビなどをそえたバインベオ(bánh bèo)とか、タピオカの粉でエビなどを包んで蒸したバイン・ボットロック(bánh bột lọc)に代表される、多種多様な蒸した点心を味わうことができます。
それから、テト(旧正月)に食べる、モチ米に豚肉や緑豆を包んだ平たい四角形のちまきは、バインチュン(bánh chưng)ですね。中部・南部では同じ材料で、丸くて細長いバインテット(bánh Tết)を作ります。中秋節(テト・チュントゥーTết Trung thu)に食べる中国式の月餅はバイン・チュントゥーまたはバインヌオン(bánh nướng)といい、ベトナム式のモチはバインザイ(bánh giầy)です。中国式の豚まん(バインバオbánh bao)や、ベトナム式のギョーザ(バインゴイbánh gối)は、みなさん食べたことがありますか。
そうそう、朝食には米粉を鉄板でクレープ状に焼いて、ヌオックマム・ベースのタレなどで食べるバインクオン(bánh cuốn)も渋いメニューです。
甘いものは、ナムディン省名物の葉っぱで包んだ黒い餅菓子バインガイ(bánh gai)など、地方ごとにいろいろあります。ハノイで春先に、温かいくず湯風の汁で食べる白玉団子(バインチョイbánh trôiとかバインチャイbánh chay)もよく知られています。
ほかに、空港などでよく売っている緑豆(ダウサインđậu xanh)の落雁もみなさんご存じですが、あれはバイン・ダウサインと呼びます。ですから、穀物や豆類を蒸したり、粉を焼いて作った食品はみんなバインなのです。ベトナムのフォー(米のうどん)屋で、フォーの麺のことをバインフォー(bánh phở)と言ってみせたら、「この外国人は通だ」と思われて待遇がよくなるかもしれません。ただしバインセー(bánh xe)は車のタイヤですから、間違えないように。
いかがですか、みなさんもベトナムに行ったら、いろいろな「バイン」を探してみてください。ハノイ国家大学の先生に教わった私のイチオシは、緑色のもち米でつくったモチに、緑豆とココナツの餡が入ったバインコム(bánh cốm)です。
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