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その2 ブンBún
ビーフン(米粉)のこと。「ブン」という発音は「粉」の字に由来するものでしょう。中国のビーフンがふつう乾麺なのに対し、ベトナムのブンは生麺として食べます。同じ仲間は、タイやミャンマーにもあります。日本のベトナム料理屋でブンがめったに食べられないのは、日本国内で製麺所がないためと思われます。
ブンの食べ方でいちばん有名なのは、フエの名物ブンボーbún bò(ブンボー・ゾーヘオbún bò giò heo)でしょう。日本の冷や麦ぐらいの太いブンに、牛肉や豚足をのせて、辛い汁麺として食べるものです。ホーチミン市でも、ブンボー・フエと呼ばれて人気がありますよね。
日本のベトナム料理屋がそうめんで代用するように、フエ以外のブンはたいてい細いものです。フォーの具が基本的に鶏肉か牛肉に限られるのにたいして、ハノイで見ると、肉やエビなどが入った五目ソバ風のブンタンbún thang、タニシの入ったブンオックbún ốc、すりつぶした沢ガニの身を具にしたブンジエウbún riêuなど、熱いスープの汁麺だけでもいろいろな種類があります。
そしてハノイの味といえば、ブンチャーbún chảをはずすわけにはいきません。あぶった肉やつくね(チャーchả)、ネム・クアベーnem cua bể(カニの身の入った揚げ春巻き)、卓上のざるに盛られたハーブ類などといっしょに、ブンを甘酸っぱいタレというかつけ汁(ヌオックチャムnước chấm)で食べるものです。1980年代にはマイハクデー通り、フエ通りなどの限られた店でしか食べられなかったのが、このごろはハノイ中どこにでもあるし、地方都市にも進出していますね。
留学中に、マイハクデー通りで初めてブンチャーを食べたときのうれしさは、今でも鮮明に思い出します。料理がのどを通らないハノイの真夏も、ブンチャーと氷の入ったビール(ビアダーbia đá)があれば乗り切れました。
もうひとつ、ハノイ名物で団体観光客がバスで食べに来ているのは、ハンザー市場の向かいのブンボーでしょう。これは南部の食べ方で、タレをつけてあぶった牛肉や砕いたピーナツ(ラックlạc)などをのせて、さっぱりしたタレをかけたブンを食べるものです。
こうした「ブンなになに」というネーミングをもたない、ブンはよく使われます。ベトナムへ行ったことのあるみなさん、お気づきですか。
ハノイ名物にチャーカー(chả cá)という、川魚と香菜(ザウトムrau thơm)類、砕いたピーナツなどの炒め料理がありますね。あれはブン(いっしょに炒めてもよい)とあわせて、エビの塩辛の臭いヤツ(マムトムmấm tôm)につけて食べます。
フエを筆頭に、ベトナム料理にはタレをつけてあぶった肉(ティットヌオンthịt nướng)のおいしいものがいろいろあり、ハマって爆食した日本人を何人も見ました。ブンチャーや南部のブンボーだと「ブンの具として肉を食べる」感じですが、逆にティットヌオンなど肉料理の付け合わせで、レタスやサラダ菜などといっしょにブンが出てくることが、日本のベトナム料理屋でもありますね。
またハノイで家庭や職場のパーティに招待されると、テーブルに肉や魚、野菜などの料理とならべて大ざるに盛ったブンが置いてあることがあります。好きな料理といっしょにつけ汁につけて食べればよいのです。同じようにライスペーパーが置いてあって、手巻き寿司風に食べるパーティもあり、どちらもいいなあと思います。
いかがですか。フォーと比べて特徴がないともいえるブンは、逆にあらゆる場所に使える万能の麺でもあるのです。
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