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その4 チェー Chè
ベトナムではいうまでもなく、お茶をよく飲みますね。ふつうはウーロン茶などと同じ「半発酵茶」(チェーデンchè đen. đênは「黒」)ですが、田舎では日本の緑茶とおなじで茶葉を発酵させていないチェーサイン(chè xanh。xanhは「青」「緑」)もよく飲みます。このごろ都会では紅茶も普及しており、ブランド名で「リプトン」と呼ばれています。
ところで、お茶という漢字はチャー(trà)と読み、氷の入ったアイスティーはチャーダー(trà đá)、日本の茶道はチャーダオ(trà đạo)と呼ぶのですが、お茶にはチェー(chè)という発音もあります。前回までのバイン(餅)、ブン(粉)など、飲食物をあらわすベトナム語には、漢字そのものではないけれど明らかに関係のある発音(俗漢越音)が少なくないように思われます。
たとえば、上のチェーデンとチェーサインもそうですが、有名なハスの香りをつけたお茶(チェー・ウオップセンchè ướp sen。ướpは香りをつける、調味料に漬け込むなどの意味)、ジャスミン茶(チェーウオップ・ホアニャイchè ướp hoa nhài)などの場合は、チャーでなくチェーといいます。
しかし、このチェーという単語は、お茶だけを指すのではありません。甘党のかたはご存じのように、日本でいえば「ぜんざい」にあたる各種の甘い食べ物もチェーなのです。たいていはガラスのコップに、冬なら熱々のチェー、夏は氷のはいった冷たいチェーを盛り、スプーン(ティアthìa)を使って食べます。
ハノイなら、チェーの代表は黒豆のぜんざいチェー・ドーデンchè đỗ đên(đỗは豆)でしょう。材料やトッピングは、ほかにもいろいろあります。
緑豆(đậu xanh. đậuも豆、 xanhは青、緑)やハスの実(ハッセンhạt sen)、それに甘く煮たイモ類(コアイkhoai)、果物(北部ではホアクアhoa quả、南部ではチャイカイtrái cây)などのチェーもよく食べます。寒天(タィックthạch)も使います。それらの盛り合わせはチェー・タプカムchè thập cẫm(thập cẩmは中国語の「什錦」。五目や盛り合わせのこと)です。
トッピングにはよく、細く刻んだココナツ(dừa)を散らします。上のような材料そのものの煮汁だけでなく、タピオカ(ボットサンbột sắn)などイモ類の根からとった粉と砂糖(ドゥオンđường)をまぜた汁を別に作り、具にかけて食べるタイプのチェーも、ふつうに見られます。
ハノイでマレーシア式チェー(chè Ma-lay-xia)、タイ式チェー(chè Thái-lan)と称するものを見たことがあり、それぞれ甘煮の果物が入っていましたが、なにがマレーシアでなにがタイなのかは、店のおばちゃんに聞いても要領をえませんでした。東京で昔、なにがベトナムかまったく不明の「ベトナム・ラーメン」というのを売っているラーメン屋がありましたが、なんでもいいから外国の名前をつけて珍しさで売ろうということでしょうか?
さて、ホテルや高級レストランだけで食事をしていては、庶民の甘味であるチェーは食べられません。街に出て、店をかまえたチェー屋さん、夕方から道ばたに出てくる屋台のチェー屋さん、いろいろ試してみてください。
ベトナムでは、アイスクリーム(ケムkem=フランス語のクレームcrèmeに由来)やプリン(北部ではケム・カラメンkem caramen〈crème caramel〉。中部・南部ではケム・フランkem franなどとも呼ぶ)もおいしいのですが、チェーにはまた、ちがったおいしさがあります。
最後に、ベトナム語を習っている方は、お茶もぜんざいも両方ともチェーだというのはどういうことか、わかりますか。たぶんチェーというのは、なにかを煮込んだり煮出して、その汁を飲んだりどろどろにして食べる、そういうものを総称した単語でしょう。
複数の意味をもつ単語というのは、多くの場合、「ただ偶然に別々の意味をもった」のではありません。「それらの共通性はなんだろう」と考えることは、外国語を意味の面で理解するのに、欠かせない勉強法です。
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