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その3 カイン canh
ベトナム語を習っている方、「スープ」はベトナム語でなんといいますか?
ホテルや高級レストランで出される中華風や洋風のスープは、スップ(súp)といいます。たいていは、日本でいえばラーメン屋のチャーハンについてくるスープのように、ちいさな茶碗(バットbát)にはいって出てくるのを、レンゲ(ティアthìa)ですくって飲みますね。具は野菜(rau)、カニ(cua)、ウナギ(lươn)などいろいろで、とろみのついたかき玉スープもポピュラーです。
このごろの日本語では、麺類の汁(関西弁では「だし」)もスープと呼ぶことがよくありますが、ベトナム語では水・液体一般をさすヌオック(nước)を使います。鍋物(lẩu)のだし汁も同じです。
さて、団体旅行しかしたことのない方は気づかずにおわりそうですが、ベトナムの食で欠かせないのは、カイン(canh)と呼ばれる、ご飯にかけるスープです。カインは「羹(あつもの)」という漢字に関係があるでしょう。年配の方は「あつものに懲りてなますを吹く」ということわざでご存じの「あつもの」という漢字は、あつあつのスープ煮のことですね。
ベトナムのコメはパサパサのインディカ米ですから、そのままでは食べにくい。汁気がほしい。インドのカレーも、食べやすくする汁気の役目をもっていますね。ベトナムでは、茶碗にご飯をとり、上からカインをかけ、ほかのおかずもそえて、箸(ドゥアđũa)やレンゲを使ってすすり込むのが、ふつうの食べ方です。日本人の一部がもっているような、「犬飯は下品だ」というイメージはありません。
日本の旅館などで宴会料理を食べると、先にアルコールを飲みながら料理を食べて、あとからご飯とみそ汁をもらうことがよくありますが、ベトナムのホテルやレストランの場合、コムカイン(cơm canh)をくれ、と頼みます。コムはご飯のことですね。そうすると大きなボウルに盛ったご飯とカインがそれぞれ出てきます。
ビンザン(大衆食堂)で一人前の食事をする場合も、ご飯と好きな種類のスープをそれぞれ、好みの量だけ別々の器に入れてもらうことができます。
貧しい家のカインは、白湯(さゆ)にほんのちょっぴり化学調味料かザウムオンrau muống (空芯菜)を入れただけ、という感じです。ビンザンや高級レストランでは、葉物の野菜のカイン、たけのこ(măng)のカイン、魚(cá)のカインなど具だくさんのカインが楽しめます。
カインの一般的なイメージは「独立した料理」ではないと思われますが、ベトナム料理に代表的メニューとして料理本にもよく出ているのは、南部のカインチュア(canh chua)です。チュアは「酸っぱい」意味ですね。タイのトムヤククンほど辛くなく、親しみやすい味です。
カインチュアの具はカーロック(cá lóc)などの淡水魚、それに料理用バナナ(チュオイchuối)、トマト(カーチュアcà chua)、パイナップル(ズアdứa)などを入れます。中華風の火鍋を囲んで食べるとひときわおいしいように思います。
ご飯やカイン、おかずをとりあえず別々の器に盛る食べ方は、忙しい昼食などにはめんどうです。そこで最近のビンザンでは、お皿(ディアđĩa)にご飯と好みのおかずをのせてもらうコムディア(cơm đĩa)が、もともとの南部だけでなく北部にも広がりつつあります。発泡スチロールのパックにご飯とおかずだけ入れるテイクアウト方式も普及してきました。
これはこれで便利なのですが、暑いベトナムでは、ご飯とカインをゆっくり食べ(食欲のないときも、ご飯にカインをかけ、卓上に必ず置いてある刻んだトウガラシ(オッớt)をひと切れ入れてかきまわせば、あら不思議、しっかり食べられます)、ゆっくり昼寝をするのも捨てがたいと思うのです。
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